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月刊 ★ ねじまき 

『金曜日の川柳』

樋口由紀子さんの『金曜日の川柳』を手にとった。レターパックを開けると、ころんと出てきて右手にすとんと収まる。おお、これが「落掌」というやつなのだなと合点した。両手で挟み込むように持ってみる。サイズと重さと手触りと、なんでこんなにしっくりするのだろう。落掌の瞬間から親密な関係になってしまう不思議な本だ。由起子さんが9年間にわたって書き綴った川柳アンソロジー333句。樋口由紀子さんがわたしとひとつひとつの句に新しい出会いを与えてくれる。1ページ1ページをゆっくり大切に読みたくなる本だ。もちろん、わたしも「万歳」とつぶやく。

# by nezimakikukai | 2020-03-10 21:13 | 火曜日にはねじをまく。 | Comments(0)

『晴』第3号より

さみしいのだからキャベツを多くして     広瀬ちえみ

なんだかもう、これはトンカツのキャベツ。切っている音が聞こえてきそうな極細の千切りキャベツがふわんと盛られている。うすみどりが美しい。「多くして」と言えば、キャベツはさらにうず高く盛られる。口の中には食べる前からやさしい甘さがひろがる。さみしいときにそんな山盛りのキャベツを目の前にしたら、ほとんど泣きそうである。「さみしいの/だから~」と切らずに、あえて「さみしいのだから」と続けて読むリズムのほうが哀しくて好きだ。

抽象的で象徴的な川の数           樋口由紀子

「チュウショウテキ」と「ショウチョウテキ」って音が似てる!声に出して読むと、口ばかり尖がって言いにくいし、何のことだか意味がわからなくなっておもしろい。川は身近にたくさんあるが、どちらかと言うと「見る」もの、「眺める」ものであると思う。つまり、「抽象的で象徴的な川」は数知れずあるということ。川は抽象的で象徴的なのだ。にもかかわらず、「生きている」とか「暮らす」とかの感触が感じられるところがおもしろい。川と橋と坂道が住む町の必須アイテムだと思う私には見逃せない句である。

木になってしまったあしたどうしよう     松永千秋

「どうしよう」と言われているのに、ちっとも困った感じがしない。「木になってしまった」のだからどうしようもない。どうしようもなく立っているだけだ。それに虎になったわけじゃない。木になったのだから、あきらめもつきやすい。木になることは案外わるいことではないような気までしてくる。「あした」はどうしようと思うかもしれないけれど、各方面に御迷惑もおかけするかもしれないので申し訳ないけれど、あさってはもうみんなだいじょうぶだろうと思うのだ。「木」は絶対的である。

# by nezimakikukai | 2020-03-03 18:51 | 火曜日にはねじをまく。 | Comments(0)

第169回ねじまき句会

題詠「 、」

1 暴飲、KURE NAI 、青空転落/犬山高木

(1票:なかはら)

2 、以上。主文は巻中ふくろとじ/櫻井誠

(5票:瀧村 二村 青砥 安藤 三好)

3 よし今日から君は、だ、になれ/猫田千恵子

(9票:なかはら 瀧村 丸山 青砥 犬山 櫻井 中川 八上 妹尾)

4 跳び出した今、今、今、今、が今消えた/三好光明

(1票:竹尾)

5 息継ぎがほしい、、、、水中花/竹尾佳代子

(4票:丸山 早川 三好 米山)

6 あっち、こっち、ごぶ、ごぶ、あした生まれるの/青砥和子

(4票:犬山 中川 猫田 早川)

7 スナック、でやけ酒煽りすってんてん/丸山進

8 スイッチオン、地球を廻す氷点下/早川柚香

9 ぽると、がると、たんぽぽ、和音になって/妹尾凛

(7票:なかはら 瀧村 二村 青砥 犬山 猫田 三好)

10 えじゃないか(てん)(てん)(てん)と浅草六区/黒川利一

(1票:三好)

11 あ、そうだ、ね、だから、さっきまでは雪/瀧村小奈生

(8票:青砥 安藤 櫻井 猫田 黒川 八上 米山 妹尾)

12 そうだった、有色人種だったのだ/安藤なみ

(2票:なかはら 丸山)

13 髪をまとめる、さて遠野物語/中川喜代子

(2票:安藤 黒川)

14 どうも、どうも、どうも、と春の雪が降る/なかはられいこ

(7票:安藤 犬山 櫻井 中川 早川 竹尾 八上)

15 蒸発のまえに、、あとに、/二村典子

(6票:丸山 瀧村 櫻井 猫田 竹尾 米山)

16 点滴も 、` 、と春の音/米山明日歌

(3票:中川 早川 妹尾)

17 、の位置変えるとチョコは大福に/岡谷樹

(5票:二村 竹尾 黒川 八上 米山)

18 、になるまでの二十年ちょっと/八上桐子

(3票:二村 黒川 妹尾)

雑詠

1 諸事情で食べなきゃいけない焦げたパン/櫻井誠

(2票:犬山 竹尾)

2 走者一掃兄はまだ帰らない/瀧村小奈生

(7票:丸山 二村 安藤 三好 岡谷 黒川 八上)

3 きさらぎを包む雨とかハトロン紙/なかはられいこ

(10票:瀧村 青砥 犬山 中川 猫田 早川 三好 八上 米山 妹尾)

4 ぬばたまのオレオここからタンバリン/青砥和子

(2票:犬山 櫻井)

5 ラップ外すと潮満ちてくる弥生/岡谷樹

(7票:なかはら 二村 安藤 早川 八上 米山 妹尾)

6 池田屋の刀の傷も令和なり/中川喜代子

(3票:なかはら 丸山 竹尾)

7 あたたかい脳に埋もれていく記憶/早川柚香

(1票:中川)

8 けっかん確保の国政調査権/三好光明

9 さざんかの赤の疲れる呼吸音/八上桐子

(5票:丸山 瀧村 安藤 岡谷 米山)

10 朝焼けだドライジンだぞコピト駅/犬山高木

(3票:丸山 青砥 櫻井)

11 らららるるるきっとどこかにあるろろろ/猫田千恵子

(5票:青砥 犬山 中川 三好 妹尾)

12 団塊はアランドロンと波裏富士/丸山進

(1票:二村)

13 だんだんとポリエステルな人になる/米山明日歌

(4票:瀧村 猫田 黒川 妹尾)

14 来客のひとりはセロリもっている/妹尾凛

(11票:なかはら 瀧村 青砥

 安藤 櫻井 猫田 三好 岡谷 黒川 八上 米山)

15 夕焼け空一番星に父の顔/竹尾佳代子

16 一瞬の目眩のあとのパスワード/安藤なみ

(3票:二村 竹尾 黒川)

17 今帰るとこです中高一貫校/二村典子

(2票:早川 岡谷)

18 折鶴の紙をひらけば雪の声/黒川利一

(6票:なかはら 櫻井 中川 猫田 早川 竹尾)


# by nezimakikukai | 2020-02-26 18:15 | 句会結果報告 | Comments(0)

『おもしろ川柳会合同句集』第十三号

ちゃんと話したいから緑茶淹れるね   竹内美千代

ちゃんと話したいときはちゃんと淹れた緑茶。「ちゃんと話したい」気持ちがちゃんと伝わってくる清々しい句。決して難しい話というわけではなく、深刻な話というわけでもないのだろうと思う。日常に、お茶を淹れて飲むという習慣があった時代には、家族の中でも社会においても、今よりもしっかりとコミュニケーションがとれていたのではないかということまで考えさせられる。コンビニのペットボトルは便利で種類も豊富だけれど、それではかなわないこともあるのだ。

しゃらくさい手のひらの賽の目豆腐   青砥和子

賽の目とか千六本とか拍子木とか、切り方の名前はなかなか格好いい。その単語を口にするだけで達人らしさが滲む。その分「しゃらくさい」の一言が生きてくるわけだが、お味噌汁にするときには豆腐は賽の目以外ほとんど選択肢がないので、「そう言われても…」という豆腐の困惑振りも同時に味わえるのがいい。ところで、私はこの句を読んだ瞬間、手のひらの上の賽の目に切った豆腐をグシャッと握り潰す感触を想像してしまった。これもまた「しゃらくさい」のなせるわざか。困ったことに、このグシャリが思いのほか爽快なのである。

ぶっちゃけた話が好きな熟し柿     中川喜代子

「熟し柿」は妙齢のおねえさまだろうか。だって「ぶっちゃけた話ね…」なんてすぐに言いそうだから。その実、ちっともぶっちゃけていない手練手管を持ち合わせていらっしゃる。こわーい。食べにくい熟し柿だって、もたもたせずにつるんと召し上がる。「ぶっちゃけた」と「熟し柿」でイメージがつながっているのだろうが、その連鎖は単純な一本線ではなくて、そこははかとない怖さも漂っているのがおもしろい。

# by nezimakikukai | 2020-02-25 17:02 | 火曜日にはねじをまく。 | Comments(0)

『川柳フェニックス』No.13より

明日の事分からぬままに拭くめがね   安井紀代子

明日のことはわからない。それは一般的認識である。しかし、眼鏡を拭くという日常的な動作が描かれることで、ひとりの人の確かな実感となって伝わってくる。しかも、ものごとがよく見えるための眼鏡であればなお奥行きのある表現となる。「拭くめがね」の5音が素晴らしい。眼鏡を拭いている背の丸さや、眼鏡を拭く布の手触りまで感じられる有効な5音である。
また、この句は、漢字とひらがなの書き分けについて考えさせられる一句でもあった。「明日」と「あす」、「事」と「こと」、「分かる」と「わかる」、「拭く」と「ふく」、「眼鏡」と「めがね」。選択の余地の大いにある言葉が並ぶ。好みの問題もあるだろうが、書き分けることで印象はずいぶん変わる。一句にとってどうするのがベストかということなども、みんなで話してみるとおもしろそうだ。

# by nezimakikukai | 2020-02-18 17:30 | 火曜日にはねじをまく。 | Comments(0)



川柳句会「ねじまき句会」の公式サイトです

by 管理人:瀧村小奈生
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